優緋の部屋

日々の出来事、想うこと、信心について、二次小説、短歌などあれこれ

シホンとジュニ ③

「ジュニさん、
ちょっと電話してくるから。
直ぐ戻る。」


そう言って、廊下に出た。


会社の部下に電話をした。

「あ、もしもし、ナム・シホンです。
夜遅くに、すまない。

申し訳ないんだが、
明日休ませてもらう。
友人が体調を崩して、
今病院なんだ。

ひとり暮らしなもんだから、
付き添いたいんだ。

急用があったら、
メッセージくれれば折り返すから。」


「今、代表がいないと困るようなことは

ないと思いますよ。
普段ほとんど休まないで
泊まり込みばかりしてるんだから、
こんな時ぐらい休んでください。」


「そうか。助かる。
じゃ、よろしく。」


処置室に戻ると、
点滴の安定剤が効いてきたのか、
ジュニの表情はだいぶ穏やかになって、
呼吸も落ちついてきた。


どうやら眠ったようだが、
もう少し寝顔を見ていたかった。


手も、先ほどより温かくなってきた。

ジュニの手を包み込むように握って、
いつの間にかシホンも
ベットにもたれて眠ってしまった。


「おはようございます。
スミマセンが、

病棟に移動するので、
その間に、入院の手続きを

お願いできますか?」

 

「あ、分かりました。
スミマセン、いつの間にか
寝てしまったんですね。

毛布、ありがとうございました。
あの、個室かふたり部屋に
お願いすることは出来ますか?」

 

「空きがあるか、確認いたしますね。

ふたり部屋に空きがあるそうです。
そちらにご案内してよろしいですか?」

 

「お願いします。
あの、わざわざ僕にまで

毛布掛けていただいて、

ありがとうございました。」

 

「いえ、患者さんがナースコールされて、
付き添いの方がお疲れで寝てしまった様なので、風邪をひかないように、
何かかけて上げて欲しいと仰るので。」

 

「ジュニさんが?」

 

「スミマセン。
起こそうかと思ったんですけど、
帰って休まれた方が良いから。
でも、ぐっすり寝ていらしたから、
お疲れなのかなと。」

 

「そうだったんだ。
病人に気を遣わせてしまって、ゴメン。
僕が寝てて、邪魔だったろう?」

 

「そんな事ないです。
側に居て下さって、安心して眠れました。
シホンさんこそ、

不自然な姿勢で寝て、
大丈夫でしたか?」

 

「うん、なんともないよ。
よく寝たみたいで、スッキリした。

じゃ、手続きしてくるね。」

 

「お部屋は、6階ですので。
荷物も移動させておきますね。」

 

「よろしくお願いします。」

 

手続きを済ませ病室に行くと、
既に寝間着に着替えて、
看護師の説明を聞いていた。

 

「お食事は昼からになります。
午前中に、空腹時に行う検査を致します。
この順番に検査いたしますので、
これをお持ちください。
今、車椅子と案内する職員を呼んできますので、少しお待ち下さい。」

 

「あの、検査には僕が付き添いますので、
案内の方は結構です。」

 

「でも、シホンさんお仕事は?」

 

「今日は、休みにしたから、大丈夫。」

 

「ありがとうございます。」

 

「では、車椅子だけお持ちしますね。」

 

「スミマセン、シホンさん。
お忙しいでしょうに。」

 

「今、急ぎの案件はないし、
この所徹夜したり働き過ぎてたからね。
こんな時ぐらい安心して休んで下さいって、部下に言われた。」

 

「だから、あんなにぐっすり寝てたんですね。
睡眠不足は身体に良くないですよ。」

 

「確かに…。
でも、ジュニさんも相当無理してるみたいだから、

今の言葉、そのままお返しします。

ちゃんと食べて寝ないと。
若いからって無理はダメだよ。」

 

「はい、気をつけます。」

 

「それと、彼氏とのことが原因なのかも?
先生が、精神的なストレスがあるんじゃないかって。」

 

「自分では吹っ切れてるつもりだったんですけど、

そうじゃなかったのかな?
自分でも気が付かないうちに
傷ついてたのかしら?

昔好きだった優しいお兄さんみたいに
優しい人だと思ったから、
付き合ったのに…。」

 

「でも、もう本物と再会したから、
その傷はもうすぐ治るよね?」


「そうですね。」

 

シホンが車椅子を押して、
血液検査から始まる一連の検査を終えて

病室に戻ると、
ちょうど昼食の時間になった。

 

「あるこれ検査して疲れたんじゃない?
食べられそう?」

「はい、気持ち悪いとかは、ないですから。

ただ、まだあまり食欲はないかな。」

 

「無理しないで、でも、食べられる物だけでも食べておいた方が良いよ。
昨日の昼から何も食べてないんじゃない?」

 

「カフェでケーキセット食べたきりですね。」

 

「そうだ、カフェで思い出した。

はい、
一日遅れだけどクリスマスプレゼント。
欲しい物聞きそびれたから、
花とアロマキャンドルにした。
好みと合うと良いけど。

花もね、ジュニさんだったら、

シャクヤクが似合うと思ったんだけど、5,6月だけなんだね。」

 

「何で私が好きな花ご存知なんですか?」

 

シャクヤク?」

 

「そうです。私が一番好きな花。
誕生花だし、華やかだから。」

 

「そうなんだ。知ってたわけじゃないよ。
なんとなく、似合うなぁってそう思っただけ。」

 

「でも、このお花もかわいいですね。
なんて言うんですか?」

 

クリスマスローズ
長持ちするらしいし、かわいいし、
クリスマスだからこれにしてみた。
花瓶に活けてくるね。」

 

「ここ置くね。
ドライフラワーにもできるらしいから、
部屋に持ち帰れるんじゃないかな。
あと、アロマキャンドルは、

よく眠れるように

ラベンダーにしたんだけど、

嫌いじゃない?」

 

「ラベンダーは、好きです。
落ちつきますよね。
退院したら、使わせていただきます。」

 

その時、お食事です。
と、職員が昼食を持ってきた。

 

「ありがとうございます。
起きられる?」

 

「はい、大丈夫です。
シホンさんもお食事なさってきて下さい。」

 

「昨日、ひょっとしてジュニさん

夕食を取る時間もなく仕事してるかもと思って、サンドイッチ持ってきてたんだ。


冷蔵庫に入れて置いたけど、
弱ってる時お腹壊したら困るから、
これ、僕がいただくね。

先に食べてて。
飲み物だけ買ってくる。」

 

すると、給食の職員がやって来て、
「お水とお茶どちらがいいですか?」

と、飲み物を運んできた。

「温かいお茶お願いします。」

 

「私も、お茶で。」

 

隣のベットは、中年の女性のようだ。
ちょうど顔が見えたので、挨拶した。

 

「こんにちは。
ハン・ジュニと言います。
出入り多くてスミマセン。
よろしくお願いします。」

 

「こんにちは。
私は、キム・ミソンです。
私は、長くてね。
もう、一年以上になります。
ジュニさんは、検査入院ですか?」

 

「昨日、バイト中に具合悪くなってしまって、救急車で。
もう、落ちついたんですが、
この際、悪いところがないか
検査していただくことにしたんです。」

 

「優しい彼氏が付き添いで心強いですね。」

 

「こんにちは。
お隣でジュニさんがお世話になります。

でも、残念ながら、

まだ彼氏じゃないんですよ、僕。
友人?知り合い?そんなとこです。」

 

「まぁ、楽しい方ね。
まだって…これから?」

 

「そういうことでしょうか?
昇格待ち?ですかね。
交際申し込んだんですけど、
振られました。」

 

「振られたなんて…、シホンさん。
誤解されます。」

 

「ご挨拶がおくれました。
彼氏未満のナム・シホンと言います。
よろしくお願いします。」

 

「お声も素敵だなと聞いてましたけど、
とてもハンサムで素敵な方ね。
こちらこそ、よろしく。」

 

「お食事のお邪魔をしてしまいましたね。
失礼しました。

ジュニさん、少しは食べられた?」

 

「ええ。残してしまったけど。」

 

「僕もいただくね。
疲れるから、横になって。

後で、ちょっと会社覗いてこようと思うんだけど、買ってきて欲しい物とかある?」

 

「明日か明後日には帰れそうだから、

特には、ないかしら。今のところ。」

 

「本とか持ってきたいけど、
病院にいるうちは、
勉強のことも忘れて

休んだ方が良いと思う。
検査結果を聞いたら、
バイト先と大学に連絡しておくよ。

 

そうだ、友だちとか心配してる人いるんじゃない?
連絡した方がいい人いたら、教えて。」

 

「あ、でもそれは、自分でします。」

 

「でも、まだひとりで談話室まで行けないだろ?」

 

「そうですけど、
シホンさんから連絡行ったら、
友だち驚くだろうし…」

 

「あ、そうか。
僕のこと知らないもんな。」

 

「メッセージだったら、
談話室まで行かなくても
病室から送れますから、
メッセージで取りあえず連絡しておきます。」

 

「そうだね。
じゃ、そうして。」

 

こんなことも、
“彼氏”として周りに認知されてれば
何のこともないのに…


焦らないとは言ったものの、
こういうことがあると、
やはり早く彼氏に昇格させて欲しいと
思ってしまう。


「それから、会社に行かれた後は、
今日はもう家にお帰りになって下さい。

昨夜もちゃんとお休みになってないのに、
ずっと徹夜したりされてたんですよね。
シホンさんが倒れたら大変です。

あの…私の連絡先、今送りますね。」

 

シホンの携帯のバイブレーションが鳴った。

「ちゃんと届きました?」

 

「登録して良いの?
僕から連絡しても良いって事?」

 

ジュニは、こくんと頷いて、
「今晩、もし淋しくなったら、
電話とかメッセージしてもいいですか?」

 

「もちろん!

午後は、検査はないんだよね。
じゃ、ゆっくり休んで。
僕は、もう行くね。
明日、また来るから。

キムさん、失礼します。」

 

そう言って、シホンは帰って行った。

ジュニは、学校とバイト先、それと親しい友人にメッセージを送ると、

目を閉じて休んだ。
そして、いつの間にか

スヤスヤと眠りについた。