優緋の部屋

日々の出来事、想うこと、信心について、二次小説、短歌などあれこれ

自分に嫉妬する

2022年

飛行機事故でク・ヨンジュンの肉体は滅び、
その中に入っていた俺(ナム・シホン)の意識は過去へ遡り、2002年のバス事故後の

自分の身体に戻った。

 

俺は、6週間意識不明だったという。
母は、もうこのまま植物人間になってしまうのでは、と思ったそうだ。

 

「ねえ、シホン。
怪我が治ったらアメリカに戻りましょう。
向こうの方が、リハビリの施設や技術も進歩しているわ。お父様も待っているのだし。」

 

「母さん、心配かけてゴメン。
でも、もう僕はアメリカには戻らないよ。
こっちでやらなければならないことがある。大学の途中だけど、そうしたい。」

 

「やらなければならないことって、
インギュさんの事?」

 

「それもあるけど、それだけじゃない。
今は詳しく話せないけど、僕を信じて欲しい。

 

僕は、バス事故で死ぬはずだったんだと思う。

でも、こうして生き返ったのには、

意味があると思うんだ。


だから、アメリカに戻って

自分のためだけに生きるわけにはいかない。
やらなければならないことがあるから、
生きて戻れたんだと思ってる。」

 

「元々、こっちに残りたいと言っていたんだものね。やり残したことがあるのね。


私は、もう少しあなたの身体が落ちついたらアメリカに戻るわ。


もし、やっぱりひとりでは無理だったら、
帰ってくるのよ。いいわね。」

 

「うん、分かってる。」

 

母には説明できないが、

俺の意識の中には、ミンジュの中に入った

ハン・ジュニとの思い出と、

ク・ヨンジュンとしてハン・ジュニと過ごした日々の思い出がある。

 

これから長い年月を、ジュニと会わずに過ごさなければならない。
それは、きっとつらい日々になる。

それは分かっていた。

 

しかし、その事は想像していた以上に

つらい事だった。


思うように動かない身体。
杖をついて歩けるようになるまでに、
一年以上かかった。

 

そのつらいリハビリを支えてくれたのは、
ジュニと過ごした幸せな日々の記憶だった。

 

しかし、身体が動けるようになってくると、
手が届く所にいるのに会えない事が、俺を苦しめることになった。

 

インギュの死を止めることが出来なかった俺は、心が折れてしまいそうだった。

 

ミンジュの叔父とソウルに移り住んでからは、物陰からジュニの姿を垣間見た事もあった。

 

ク・ヨンジュンとなった俺と幸せそうに過ごすジュニを見て、良かったと思う気持ちと、
ク・ヨンジュンである自分自身に嫉妬した。

 

しかし、ク・ヨンジュン(意識はナム・シホン)がジュニとの愛を育くみ、そして死ななければ、1998年にミンジュの身体に入った

ジュニと俺(ナム・シホン)の出逢いはないのだ。

 

今は、じっと耐えるしかなかった。
いつか、ジュニと会って全てを話せる日が来ることを信じて。

 

インギュが自殺してしまった今となっては、
もうジュニが1998年に行って、ミンジュの死を止めて歴史を変える以外なかった。

 

その為には、ク・ヨンジュンは死ななければならない。


しかし、長い年月を経て、
俺に躊躇いの気持が生まれていた。

 

ク・ヨンジュンを失うことで、
ジュニはどれ程悲しみ苦しむかも
容易に想像できた。

 

手を伸ばせば届くところで、涙を流すジュニを慰めることも出来ない。

だから、もう過去を変えることは諦めて、
ジュニとク・ヨンジュンが幸せになればいいのではと思ってしまったのだ。

 

そして、俺はク・ヨンジュンである自分自身に、一便後の搭乗券を渡しに行った。

 

飛行機事故で、お前は死ぬ。
一便後の飛行機に乗って、ジュニと会うんだと。

 

しかし、ク・ヨンジュンである俺は、

思わぬ返事をした。


飛行機事故で死ぬことで、1998年のジュニに会えるのだから、僕は死にに行くんじゃない。

 

ジュニに会いに行くんだ、と。

 

そして、携帯と指輪を俺に託すと、

躊躇うことなく搭乗口に向かって行った。

 

確かに、一便後の飛行機に乗ったならば、
俺はこの場で消えてしまうのだろう。
2002年に戻ることはないのだから。

 

ク・ヨンジュンである俺は、自分の成すべき事を選択して行動した。


後は、俺が計画通りジュニにカセットテープとプレーヤーを送り、1998年に行けるようにするだけだ。

 

俺とク・ヨンジュンが会ったことで、

既に歴史は変わり始めているようだった。