優緋の部屋

日々の出来事、想うこと、信心について、二次小説、短歌などあれこれ

叔父の願い

2003年

姪のミンジュが亡くなって、
早いものでもうすぐ
5年が経とうとしている。

 

ミンジュがなくなった当初は、
姉は泣いてばかりいるし、
私も仕事に手がつかなかった。

 

幸いだったのは、
ミンジュの弟のドフンが、
姉の不幸から
母を自分が支えなければと
随分しっかりするようになったことだ。

 

家事を手伝ったり、
ミンジュの代わりに
レコード店の店番をしてくれたり
頼まれれば、
インギュのおばあちゃんの食堂の配達を
手伝ったりするようになった。

 

姉は結局離婚し、
ドフンとふたりではあの家は広いから、
売りに出された。

 

別れた旦那からは
たいした慰謝料は取れなかったから、
家を売った金で
次の仕事が見つかるまで
生活していた。

 

家を売りに出すのに、
家財などを整理しなければならなかったが、姉はまだ気持が落ち込んでいて、
ミンジュの遺品には手がつかなかった。

 

だから、私が家財を整理することになった。

服などは養護施設にまとめて寄付した。
本や教科書、参考書なども、
ドフンが使いたいと言うもの以外は
古本屋に引き取ってもらった。

 

そうしてミンジュの遺品を整理している時
見つけたのが、

あの日記帳とカセットプレーヤー、

そして、ポケベルだった。

 

日記帳は、警察に証拠として出すべきだったのかもしれない。
しかし、私が読んでも、犯人に繋がるような事は書かれていなかった。

 

ただ、レコード店に良く来ていた友人のひとりがシホンといい、ミンジュが好きだったらしく、もうひとりはインギュといって、

彼に告白された事が書いてあった。

 

最後のページの

“彼がク・ヨンジュンだ。”
という言葉だけが意味不明だった。

 

家の整理も終わり、少し落ちつくと、
ミンジュの言い残した

「叔父さんは将来カフェのオーナーになるはずだから、時間を見つけてバリスタの勉強をしておいて。」

という言葉を信じてバリスタ教室に通った。

 

まさか、それが本当になるとは、
その時は考えてもいなかったが、
暇になってきた店にひとりでいるよりは、
何かに打ち込んでいる方が気が紛れた。

 

そして、2003年のある日、
レコード店に青年が尋ねてきた。

ナム・シホンだった。
ミンジュが好きだったという
あの同級生だ。

 

彼は、杖をついて片足が不自由になっていた。

 

そういえば、去年大きなバス事故があった。
ニュースで見たような気もするし、
風の噂で、ノクサン高校の卒業生が怪我をしたと聞いた気もする。

 

でも、その時は、うちの店に良く来ていた
ミンジュの友人の高校生とは結びついていなかった。

 

カランと音を立てて店に入ってきた彼は
「叔父さん、お久しぶりです。
僕をおぼえてます?」と言った。

 

「あぁ、ミンジュの友だち、だろ?
一緒に店の前で写真を撮った事がある。

もうひとりの友だちと、よく店に入り浸っていて、ミンジュが怪我をした時は、何度も見舞いに来てくれたよな。

 

その怪我は、バス事故で?」

 

「はい。やっと杖をついて歩けるようになったので、お訪ねしました。」

 

「そうか、ノクサン高校の卒業生が大怪我をしたことは耳にしたが、君だったんだ。
大変だったんだな。」

 

「今日伺ったのは、

お願いがあって来ました。」

 

「お願いって、何だ?」

 

「ミンジュの遺品で、何か気になる物や

ミンジュの事件に関わりそうな物ってなかったでしょうか?

 

インギュが犯人ということで刑務所に入りましたが、彼は犯人ではないです。

 

でも、その証拠がなくて、インギュも面会に行っても会ってくれなかったし。

 

俺、インギュもミンジュも救いたいんです。救えるはずなんです。
協力していただけませんか?」

 

「ミンジュを救うって、
どういうことなんだ?」

 

「ミンジュが亡くなる前、

襲われて怪我をした時がありましたよね。
あの後、性格が変わった?と思ったことがありませんでしたか?

 

ハン・ジュニという名前を、聞いたことはありませんか?」

 

「実は、ミンジュの遺品を整理している時、日記帳が見つかってね、読んでみた。
けれど、警察には提出していない。

犯人に結びつくような記述はなかったし、
プライベートを余りさらすのもどうかと思ったし…

ミンジュは一時期、ハン・ジュニという

未来から来た人の人格になってたんだろう?」

 

「叔父さんもお気づきだったんですね。」

 

「色々不可思議なことがあったからね。
その時は分からなかったが、日記を読んで、腑に落ちたよ。

 

ところで、君はク・ヨンジュンと言う人は

知ってるかい?」

 

「その名前も、日記に?」

 

「あぁ、最後のページにね。
“彼がク・ヨンジュンだ。”と書いてあった。」

 

「そうでしたか。
信じられないかもしれませんが、
僕が2007年から2022年まで、

ク・ヨンジュンだったんです。」

 

「それって、どういう…?」

 

「2002年にインギュに会うために

一時帰国しました。
インギュには会えませんでしたが、
インギュのおばあちゃんと叔父さんには挨拶しに来たいと思って、バスの乗ったんです。

その時、あの事故に遭いました。


6週間意識不明だったそうです。

 

僕の意識はその時、

2007年のク・ヨンジュンの身体に入ったんです。
ミンジュの身体に

ハン・ジュニの意識が入ったように。

そして、大学でジュニと出逢い、

2022年まで共に過ごしました。」

 

「それで、今ク・ヨンジュンはどうしているんだ。君は、ナム・シホンなんだよな。」

 

「ク・ヨンジュンは、

2022年に飛行機事故で亡くなりました。

その時、ク・ヨンジュンの身体に入っていた僕ナム・シホンの意識が、2002年のバス事故の後の身体に戻ったんです。

 

だから、僕は、身体も意識もナム・シホンです。

ク・ヨンジュンは、別の(元の)人格として
生きています。今は。」

 

「ややこしいが、君の話は理解できる。


君は一度2022年まで生きて、2002年に戻ったんだね。

それで、私に協力して欲しいとは、

どんなことなんだ?」

 

「過去を変えたいんです。
ミンジュの死を防げば、歴史が変えられるはずです。
その為には、2023年のハン・ジュニが1998年に来なければならない。

 

まずは、インギュの死を止めるために動きますが、その後2007年からは、ク・ヨンジュンとして生きてる僕がいますから、

僕はジュニには会うことが出来ない。」

 

「ちょっと待て。

インギュは、死ぬのか?
あの、一緒に写真を撮った、犯人とされてる青年だよな。まだ、刑務所にいる。」

 

「彼は、2006年出所後間もなく、

ミンジュが死んだ場所で自殺するんです。
まず、それを止めなければ。

 

そして、おそらく、2007年にク・ヨンジュンになった僕が叔父さんを訪ねるはずです。

叔父さんは、何も知らないふりをして、

彼の動向を僕に教えて欲しいんです。

 

ク・ヨンジュンがハン・ジュニと出逢って恋人にならなけらば、1998年には来られない。

 

そして、2023年になったら、このカセットプレーヤーとカセットテープを彼女に送ります。

そうすれば、僕たちは1998年に出会って、

ミンジュを救えるはずです。」

 

「ずいぶん遠大な計画だな。


でも、ミンジュや友だちをそれで救えるなら協力するよ。
しかし、君に真犯人は分かってないんだな。」

 

「これから、過去の事件を洗い直して、
真犯人を捜します。
それと、仕事も見つけて、
何とか生活もしないと。」

 

「電話で時々連絡を取り合おう。
しかし、居場所が分かっているのに、
ジュニに会えないのは、つらいな。

 

ジュニの話がしたくなったら、うちに訪ねてくればいい。
私も、ミンジュの話をする相手がいないし。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

「私は、かわいい姪を取り戻したい。
君は、恋人と親友を救いたい。
目的は同じだ。一緒に頑張ろう。」