優緋の部屋

日々の出来事、想うこと、信心について、二次小説、短歌などあれこれ

消えていく記憶

1998.10.14

 

10.13のミンジュの死を回避した私(ジュニ)は、インギュにカセットプレーヤーと
カセットテープの処分を頼んだ。

 

「これがなくなれば、
ミンジュが帰ってくるはずよ。

チャニョンの意識はチャニの身体から抜け出たし、もう危険はないはず。

これがあると、私もここに来たくなるし、
チャニョンの手に渡ったら大変だもの。」

 

「でも、これを処分してしまったら、
もう君はここに来られなくなる。
君に会えなかったら、
シホンは淋しくて耐えられないと思う。」

 

「きっと大丈夫。
これがなくなれば、
私との記憶もなくなるはずだから。」

 

「ミンジュのためなんだね。」

 

「もう、ミンジュの人生には関わっては

いけないと思うの。
だから、お願いね。」

 

そうインギュに託すと、
私はノクサン駅に向かった。
シホンと最初で最後のデートをするために。

 

ふたりで電車に乗り、海へ行った。

 

波打ち際で水を掛け合ったり、
普通の恋人たちのように
楽しい一日を過ごした。

 

海に沈む美しい夕日を見ながら
シホンが言った。


「今日が最後なんだろう?

 

もう、会うこともない。
お前と過ごした記憶は消えて、
ク・ヨンジュンとして
大学で出逢うこともなくて、
ふたりで過ごした記憶も消えてしまう。

 

ジュニがいなくて、
俺は淋しさに耐えられるんだろうか?」

 

「大丈夫。永遠の別れじゃない。

あなたなら、
きっと私を見つけてくれるでしょう?」

 

「そうだね。
必ず見つける。
どこに居ても、
どんな時間でも
必ず君を見つける。

 

約束するよ。」

 

「約束よ。」

そう言って抱きしめ合うふたりの身体は、
パズルが崩れるように消えていった。

 

シホンは気が付くと自分の部屋にいた。

 

目の前にあるジュニとの思い出が
崩れていく。

 

慌ててスケッチブックをめくって
ジュニを描いた絵を探す。

 

その絵も、見る間に薄くなり
白紙のページになってしまった。

 

シホンの記憶から
ハン・ジュニとの思い出は消えた。

 

俺は今何をしていたんだ?
白紙のスケッチブックを持って。

何故涙が…?

 

首を捻って涙を拭き
スケッチブックを机に置いた。

 

 

ジュニは車の中で目覚めた。

慌てて携帯を取り出して写真を見る。

 

写真の中のク・ヨンジュンの姿が
どんどん消えていく…。

 

次に目を開けた時には、
ふたりで住んでいた部屋にいた。

 

目の前にある
全てのク・ヨンジュンとの思い出が
崩れて消えていく…。

そして、薬指の指輪も消えた時、

 

「なぜ、私はここに?」と呟きながら、

何もなくなったふたりの部屋から


ジュニの姿も消えていった…。

 

1998年から2023年までの

全ての記憶は消えた。

 

そして、1998年にミンジュが交通事故に遭ったところから、

新たな記憶が積み重ねられていく…