優緋の部屋

日々の出来事、想うこと、信心について、二次小説、短歌などあれこれ

眼差し

インギュとふたりで、
ミンジュの誕生日パーティーをした後、
ミンジュを家まで送った。


そして、告白された。

 

俺は、ミンジュに
「異性として見たことはない。
好きになることはない。」
と正直に告げ、

その場を立ち去った。

 

俺がいなくなってから、

ミンジュは、泣いたらしい…

 

(その様子を、インギュが物陰から見ていたとは…)

 

その後、

ミンジュが家に入ると、

家中が散乱していたという。

 

ミンジュは、母が弟を連れて出て行った

(離婚協議流れの父から隠れるため)と思い、

「自分は見捨てられた」と、

泣きながら叔父に電話したようだ。

 

叔父のレコード店主は、

「直ぐ行くから、待ってろ。」と言ったのに、
ミンジュは、俺に振られたショックもあったからなのか、

母と弟を探しに家を出て、

夜道を彷徨っている時、何者かに頭を殴られ
意識不明になった。

 

俺は毎日のように見舞いに行ったが、

ミンジュは、なかなか目覚めなかった。

 

何度目かの見舞いの時、
カセットプレーヤーであの曲を
イヤホンで聴かせてみた。

 

好きな曲を聞くことで
目覚めるきっかけになればと。

 

曲が流れ始めると、
指が微かに動いた。

俺は、
「クォン・ミンジュ。
クォン・ミンジュ、気が付いたのか?
俺が分かる?」と声をかけた。

 

ミンジュの目が開き、
俺の顔を捉えるとじっと見詰めた。

 

ヨンジュンなの?
会いたかった。
どこに居たの?」
と泣きながら抱きついてきた。

 

確かにミンジュのはずなのに、
ミンジュではない気がした。


あんな風にじっと、

俺の目を見詰めたことなどなかった。

あんな、切ない眼差しを
見たことがなかった。

 

いつもミンジュは、目が合っても、
すぐに恥ずかしそうに
目をそらしてしまう。

 

それなのに、
今はじっと見詰めたかと思うと涙ぐみ、
会いたかったと縋り付いてくる。

 

ミンジュがまるで
知らない人のようだった。

 

俺は戸惑って為す術もなく、
ミンジュに抱きつかれたままで
茫然としていた。

 

インギュが病室に入ってきて、
慌ててミンジュを引き剥がした。

 

それからのミンジュは、
まるで人が変わったようだった。

明るく積極的になった。

時には、悪ふざけまでするようになった。

 

普段は悪態をついたり、
友だちとして
気楽そうに振る舞っているのに、
ふと目が合った時に
あの切ない眼差しになる…。

すると、俺は目が離せなくなって
見つめ合ってしまうのだ。

 

ミンジュのことは友だちで、
異性として見たことはなかったのに、
あの眼差しに出逢ってから、
ふと気が付くと
ミンジュの事を考えている自分に気づく。

 

ダメだ、考えるな、
インギュとミンジュを取り持つために友だちになったんだ、と思っても、
気が付くとミンジュの事を考えていた。

 

ミンジュの泣き顔が頭から離れなかった。
何故泣いたのか知りたくてたまらなかった。

 

抑えても抑えてもわき上がる気持ちに、
頭が爆発しそうだった。

 

だから、写生大会の日、
インギュと仲良く絵を描く姿を見たくなくて、独り離れて時間を潰していた。

 

間もなく終わる頃、
ベンチに座っている所を
ミンジュに見つかってしまった。

 

「何にも書いてないんでしょ。
提出できなくても知らないよ。」
そう言うミンジュに
「10分もあれば余裕さ」と答えた。

 

するとミンジュはクスクスと笑って
「芝生に寝転んでたでしょ。
髪が草だらけだよ。」という。

 

自分で払ったが、
「そこじゃなくてこっちの横。
取ってあげる。」
とミンジュが
「こんなに付けちゃって…」
と言いながら草を取ってくれた。

 

その時、また目が合ってしまった。

見詰めたらダメだと思いながらも
目が離せない…。

 

その時、
バラバラと急に雨が降ってきた。

「大変。絵が濡れちゃう。」と
駆け出すミンジュ。

 

そして、振り返りながら
「シホンも早くおいで」
と手招きをする。

 

そのミンジュの後ろ姿と
手招きする時の笑顔を見て
(あぁ、ミンジュが好きだ)
と思った。

 

もう、自分に嘘をつくのは辞めよう。

俺はミンジュが好きだ。

アメリカに去る身だから告白はしないが、
インギュにはちゃんと言おうと決めた。

 

もう、あの眼差しから
逃げない。