優緋の部屋

日々の出来事、想うこと、信心について、二次小説、短歌などあれこれ

会いに行く

仁川国際空港

これから俺は、
ニューヨーク支社に赴任した
ジュニを追ってアメリカに行く。


俺の顔を見たら、
ジュニは怒るかもしれない。

「私のために
後を追いかけてきそうで…。
1年間お互いに
将来のためするべきことをしよう?」
君はそう言ったから。


でも、一週間でも離れるのは
嫌だった。


2022年に、
ク・ヨンジュンが死ぬことは
1998年のジュニから聞いていた。

でも、ジュニと付き合いだしてからの日々が

あまりにも幸せだったから、
この幸せが
永遠に続く様な気が、
この頃はしていた。

もう、2022年なのに。

 

会ったら怒るかもしれない。
でも、彼女に指輪を渡したかった。


誕生日プレゼントの中に隠したのに、
彼女とケンカになって、
ジュニは指輪に気が付かないまま
プレゼントを置いていってしまったから。

 

カウンターで搭乗手続きを済ませ
椅子に腰掛けていると、
誰かが近づいてきて
俺の前で立ち止まった。


杖をついて、片足が不自由な男性。


見上げると、それはもうひとりの俺、
10年後のナム・シホンだった。
正しく言えば、
本来のナム・シホンだ。

 

彼は言った。
「2022年に
ク・ヨンジュンが死ぬことは
聞いていても、
いつどの様に死ぬかは、
ジュニから聞いていないはずだ。

君の乗るはずの飛行機は、
離陸直後に事故を起こして
乗客乗員が全員亡くなる。

これは、一本後の飛行機の搭乗券だ。
これで、ジュニに会いに行くんだ。」

と、搭乗券を差し出した。

 

この搭乗券の飛行機に乗れば、
ジュニに会える。死なずに。
そして、永遠に幸せは続く?

 

いや、俺が死ななければ、
ジュニが1998年に来ることはなく、
ふたりの出逢いはない。

確かに、
小学生のジュニとのふれあいはあったが、
同級生としてのジュニと出逢わなければ、
俺がク・ヨンジュンになることはなく、
大学での出逢いもなかっただろう。


「この飛行機に乗れば
ジュニに会えるのかもしれない。
でも、俺が死ななければ
ジュニは過去の俺に会えない。

そしたら、俺も君も、
ひょっとしたらジュニさえも
消えてしまうんじゃないのか?」


「しかし、その飛行機に乗ったら、
ク・ヨンジュンの身体は滅びてしまう。
それでも、行くのか?」


「俺は、死にに行くんじゃない。
ハン・ジュニに会うために行くんだ。
この中にふたりの思い出が残っている。
それと、自分で渡したかったけれど、
君に託すよ。ジュニを幸せにして欲しい。」

そう言って、
携帯とジュニ渡すはずの指輪を
もうひとりのナム・シホンに託した


ク・ヨンジュンの身体が滅びた時、
おそらく俺の意識(魂)は、
2002年のバス事故後の
自分の身体に戻るのだろう。

それが、目の前にいるもうひとりの俺、
ナム・シホンに違いない。


眠っているうちにク・ヨンジュンになった時と違い、

今度は死ぬことがわかっている。
しかも、今度目覚めた時は、
不自由な身体になっている。
怖くないわけではなかった。

 

でも、ハン・ジュニに会うために、
俺は行くんだ…。


ジュニ…。
君を悲しませ、泣かせることになる。
ゴメンよ。

 

でも、また必ず、会おう。