優緋の部屋

日々の出来事、想うこと、信心について、二次小説、短歌などあれこれ

① クォン・ミンジュ

高校3年生になった。

 

あの“交通事故”から目覚めてから、
私は少し変わったと思う。

 

ナム・シホンは
アメリカに移住していなくなった。

シホンがいないのは淋しいけれど、
インギュは友だちとして
変わらず優しく接してくれている。

 

「ねぇ、インギュ。
私、あの交通事故の前は、
自分は独りぼっちで不幸だと思ってたの。
でも、意識が戻ってからは、
そうじゃないって分かった気がする。

前から私のことを心配したり
側に居てくれる人がいたのに、
見えてなかったんだよ。」

 

「今は、見えてる?」


「うん、見えてるよ。
インギュがいるし、クラスメートもいる。
母さんと弟、叔父さんだっている。
インギュのおばあちゃんも、ね。」

 

シホンがいなくなった代わりに、
私は時々インギュのおばあちゃんのお店を
手伝いに行くようになった。

 

叔父さんのレコード店が、
時代の流れで少しずつお客が減って、
店番があまり必要でなくなったからだ。

 

インギュは相変わらず学年トップで、
大学を目指して頑張ってる。

私も、インギュに勉強を教えてもらうようになって、ずいぶん成績が上がった。

これなら、大学は無理でも
地元の短大なら行けるかもしれない。

 

叔父さんは、店が暇になった時間を使って、バリスタの勉強を始めている。

なんだか、
夢の中で私に言われたんだって。

レコード店が流行らなくなったら、
カフェを開くことになるから、
生き残るために
技術を身に付けておいた方が良い」って。

 

最近、こんな話が出るようになった。

 

インギュがソウルの大学に行ったら、
おばあちゃんは独りになってしまうし、
歳のせいで食堂もしんどくなってきた。

 

私の両親の離婚問題も片付いて、
母さんも夜の仕事にも疲れてきたと。

 

そこで、インギュのおばあちゃんが
私の母に
「夜の仕事を辞めて、
食堂を引き継いでもらえないだろうか」
といってきた。

 

いずれにせよ、
私とインギュの進路が決まってからになるだろうが、
私の家族と叔父、インギュのおばあちゃんが家族のように助け合って一緒に暮らすことになるのかもしれない。

 

私が勉強や食堂の手伝いを頑張るようになって、弟のドフンも変わってきた。

自分のことは自分でやるようになったし、
ゲームばかりしていたのが、
勉強もするようになって、
少しずつ成績も上がってきた。

 

皆の努力や頑張りが
ひとつづつ実を結んできている気がする。

 

以前は、
未来に希望なんてなかった。

けれど、今は違う。

 

インギュの事が好きなのか、
付き合うかどうかまだよく分からない。

けれど、前はシホンがいないとぎごちなかったのが、
今はふたりで楽に話せるようになったし、
一緒にいると心が落ちつく。

お互い、相手のことを
少しずつ理解してきていると思う。

 

先のことは、どうなるか分からないけれど、私の未来には
夢と可能性と希望に満ちていると、
今は思う。