僕は、オ・チャニ。
ノクサン高校の2年生。
クォン・ミンジュの同級生だけど、
彼女はきっと、僕のことなど知らない。
僕は内気だから、友だちもいなくて、
きっと大人しくて目立たないやつと思われているだろう。
担任でさえ名前を忘れるくらい。
それは、たぶん彼女クォン・ミンジュと同じ。
だから、自分と似た可愛い子がいるなと、
僕は入学して割合すぐに君のことを見つけた。
ミンジュは、可愛いのにいつもうつむいてばかりいる。
たまに、笑顔を見せることもあるけど、恥ずかしいのか、すぐその笑顔を引っ込めてしまう。
僕は、彼女の事が好きだけど、付き合いたいとか思っているわけじゃない。
ただ、遠くから時々見られればそれでいい。
偶然、学校行事でミンジュが写った写真を手に入れることが出来た。
それは、大切に仕舞ってあって、時折取り出して眺める。
僕の宝物だ。
彼女は、どうやらナム・シホンという、
イケメンで人気のある男子生徒が好きらしい。
控え目に彼を盗み見て、笑顔になっているのを何度か見た。
僕は、彼のようにイケメンでも人懐こくもなく、頭もさほど良くない。
でも、彼女が幸せそうに微笑んでいれば、
ただそれだけで幸せな気持ちになる。
好きな人、好きな物は大切にして、傷を付けてはいけない。僕は、そう思う。
なのに、弟のチャニョンは
「好きならば自分の物にすれば良いのに。
蝶の標本のように、一番綺麗な時に標本にして自分だけの物にしたら良いのに。
傷を付けたらダメなんて、つまんないの。」
と恐ろしいことを言う。
僕は昆虫採集の道具は持っていたが、美しい蝶を傷付けたくなくて、飛んでいる姿を見ていた方が良くて、辞めてしまった。
ある時、突然僕の身体にチャニョンの意識が入り込んで、僕自身の意識が隅に追いやられ、身体をチャニョンに乗っ取られてしまった。
チャニョンは、僕のふりをして幼いチャニョンに恐ろしい話をした。
人間も一番綺麗な時に標本にして良いと。
そして、僕たちは特別だから、平凡な人間には理解できない。普通のふりをして、特別な存在であることを隠すんだと教え込んだ。
僕は驚いて、チャニョンに言った。
人間を標本になどしてはいけない。
ミンジュは大切な人だから手を出すなと。
チャニョンは、全く僕の言うことなど聞かなかった。
僕は、意識の隅からチャニョンがミンジュを襲うのも、殺すのも見てしまった。
僕の身体を使って。
僕の好きなミンジュを、僕の身体を使って殺すなんて…
どうして、お前はそんなことをする…
兄さん、彼女の事が好きなんでしょ。
これでもう年を取ることもなく、彼女は一番美しい姿で皆に覚えていて貰える。
僕たちのものになったんだ。
喜んでよ、兄さん。
チャニョン、好きなら傷付けてはいけないと教えてあげたのに。
どうして、そうなってしまったんだ。
なぁんだ、兄さんも母さんや他の人と同じで凡人だったんだね。
僕が兄さんの身体から出てしまったら、
兄さんは訳の分からないことを言うようになったと、病院に連れて行かれて、それきり家に帰ってこなくなった。
所詮、兄さんは凡人だったんだね。
つまんないの。
いいよ。兄さんの持ってた写真とか昆虫採集に使う薬とか、僕が使ってあげるから。
僕は兄さんと違って内気でもないし、普通の人のふりをして友だちだって作れる。
ク・ヨンジュンというお人好しと友だちになったし、ミンジュに似たジュニともともだちになった。
顔はそっくりだけど、性格は真逆だから、
興味ないけどね。
いつか、ミンジュのような子に出逢ったら、僕の物にしようと思っていたら、思いもよらず、ジュニから過去への行き方を知ることが出来た。
僕は最近、昔の兄さんそっくりになってきた。過去への行き方が分かったから、また、あの時のように、過去の兄さんの身体に入って、ミンジュにもう一度会えるな。ふふふ…
兄さんは、心が壊れてしまったみたいだから、病院にいていいよ。
僕が兄さんの身体を使って、好きなことが出来るから…